もみほぐしとマッサージ

「もみほぐし」という言葉の意味は、文字どおり身体を「もんでほぐす」ことです。身体というと筋肉を想像しがちですが、骨や皮膚、関節などを含みます。「もみ」には本来の揉みに加えて、押し、擦り、叩き、揺すり、伸ばしなどの手技があります。たとえば関節を伸ばすストレッチは、それによって身体をほぐす「もみほぐし」だと言えます。

私たちが知るよく似た言葉に「マッサージ」があります。もみほぐしよりもこちらの方がずっと一般的で馴染みのある言葉ではないでしょうか。マッサージは揉みに加えて、押し、擦り、叩き、揺すり、伸ばしなどの手技があります。やはり筋肉だけでなく身体の様々な箇所を対象にします。ストレッチもマッサージの技法の一つです。

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このように見ると、もみほぐしとマッサージはどちらもほとんど同じではないかという指摘ができます。呼び名が違うだけで両者は同じものかも知れません。しかし、同じではないかも知れません。

その結論を得たいと思います。もみほぐしとマッサージはどこが違うのか。そして違いがあるとしたなら、私たちはその違いをどのように捉えるべきなのか。それが当ブログもみAの今月のテーマです。

マッサージが許される人々

もみほぐし業界に関わる多くの人はすでにご存じのとおり、マッサージという言葉は特定の人々しか使えません。法律上マッサージという言葉を使えるのは、医師とあん摩マッサージ指圧師のみです。

誤った認識に、同じ医業類似行為の有資格者であればマッサージを名乗ることができると思い込んでしまうことがあります。たとえば鍼灸師や柔道整復師です。たとえ彼らであっても、あん摩マッサージ指圧師の資格を併せて持たなければ、厳密な意味でのマッサージはできません。

理学療法士及び作業療法士もマッサージに関わりますが、あくまでも理学療法における物理的手段の一つとして定義されています。彼らも該当しません。

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余談ですがあん摩マッサージ指圧師とは、あん摩師、マッサージ師、指圧師の3資格がそれぞれ別なのではなく、あん摩マッサージ指圧師でひとつの資格です。鍼灸師ははり師ときゅう師の2資格を併せたものなので誤解しやすいところです。

かなり長い名称であることから、あん摩マッサージの言葉を省力して「指圧師」と名乗る方もいます。その方がカッコイイ表現に思えます。あん摩師ではどこかイメージが古ぼったく、マッサージ師では一般的すぎるのでしょう。

天地ほどの違い

国家試験に合格しなければあん摩マッサージ指圧師を名乗ることはできません。しかも受験資格を得るためには高校卒業後、所定の専門学校や養成施設で3年間学ぶことが必要です。医療従事者であることから専門学校の学費、教材費は決して安くはなく、卒業までの費用は一般に約250~300万円かかると言われています。

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一方、もみほぐしのセラピストはどうでしょうか。研修制度がしっかりした単独店でも約2~3ヵ月、チェーン大手の早いところでは、わずか2~3週間でデビューさせるお店もあります。かかる費用はほとんど無料です。

マッサージ師になるためには最低でも3年もの期間と300万円を費やして試験に合格しなくてはならないのに、もみほぐしセラピストとは天地ほどの違いがあると言わなくてはなりません。ここに実は、もみほぐしとマッサージを巡る不可思議な構図の原因があると考えます。

職域を犯す存在

あはき法(あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律)を読んでみましたが、条文のどこにも無資格者がマッサージという言葉を使うと違法とは書いてありませんでした。マッサージという言葉が使えないのは、どうやら国家資格が持つ名称独占権への侵害が理由だと解釈できます。

しかし他の国家資格にも名称独占と類似名称の因果は見られるのに、マッサージがとりわけ厳格なのはなぜでしょうか。一つには医業類似行為であり、顧客の身体に直接影響を及ぼすものであるからです。そして今一つは、もみほぐし業界の興隆に対し有資格者からの反発が強く、その不満の声の表れからではないかと考えます。

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苦労してマッサージ師の資格を取ったにも関わらず、ほとんど見た目には同じ手技を業として行う者がいる。法律的には自分にだけ許されているはずのマッサージという職域を犯す存在に対し、不満や敵意を覚えるのは半ば当然かも知れません。

一方で、もみほぐしセラピストの中にも、そのことで負い目を感じる人がいます。自分がマッサージ師の職域を犯し、もしくは自分の仕事が法の網の目をくぐっているのではないかという罪悪感です。日陰者の様な感傷をどこかに抱くこともあるようです。

もみほぐしは危険?

一部のマッサージ師とその擁護者から見れば、もみほぐしの多くのセラピストは東洋医学や解剖学の一般知識も持たず、やみくもにただ顧客の身体を揉んで稼いでいるという印象を与えているようです。

そこから無資格者は危険、低料金マッサージは安易に受けるべきではない、という声が聞かれたりもします。知識や技能、経験の劣る素人のセラピストでは顧客の身体にどんな悪影響を与えるか分からない、気をつけなさいというものです。

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著者自身も低料金の大手もみほぐし店に客として訪れ、確かにこれは少し危険と感じた施術は一度や二度ではありませんでした。しかし4~5年前と比べて年々減ってきている印象を受けます。

柔道整復師などの資格保持者であっても整体マッサージ中に事故を起こすことがあります。むしろ熟練の経験者であるからこそ生じる可能性が逆に高かったりもします。知識は必要ですが、圧への配慮、慎重さが問われるだけの問題という気がします。

根本を左右するもの

低料金サロンでたとえあったとしても、優れた技術でしっかり施術を行なうセラピストは存在します。私の身の回りにはそういうセラピストが何人もいます。国家資格だから安全で、民間資格だから危険という一辺倒の解釈はもはや現実離れしています。

経験は必ずしも専門学校の実習で積むものだけでなく、現場での実践を経て蓄えられます。知識においても有資格者に劣らない人や、高度で専門的で技能を持っている人もいます。

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突き詰めて考えてみると、この仕事で根本を左右するのは、セラピストやマッサージ師に備わった個人的な要素であることが分かります。免許や資格、さらには知識、技能、経験などはあくまでも表裏的なバロメーターに過ぎません。そして、施術を受けた顧客の印象と満足度こそが根本に当たるのではないでしょうか。

実力の世界

施術をとおして顧客に与える成果こそが客観的なバロメーターであり、あらためて言わなくても、それは誰もが感じ、実は心の奥底では判っていることなのです。

著者は中小企業診断士という免許を持っています。経営コンサルタントして国が認める唯一の資格であり、一次、二次の両試験を通じて企業経営とマネジメントに関する広範な知識と技能が試されます。しかし世間では、無資格であっても活躍しているコンサルタントが数多く存在しています。

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中小企業診断士はあん摩マッサージ指圧師と同様に、名称が長いことから単に診断士と呼ばれます。ただし名称独占権は気にもかけていないようで、コンクリート診断士、査定診断士、サービス診断士、マンション診断士など、〇〇診断士という類似名称の民間資格が増えています。全く別ものと理解しています。

もみほぐしセラピストもマッサージ師も、コンサルタントと同じく実力の世界に身を置いているといえます。実力の世界は特殊です。成果を上げている相手に、自分のキャリアをいくら誇ってみたところで無意味なのです。

治癒と非治癒

それではさらに、私たちの仕事で客観的な成果とは何でしょうか。顧客が抱く信頼感や満足感という表現ではまだ少し抽象的です。もっとも分かりやすい一番の成果は「身体が楽になった」というものです。

ところでもみほぐしセラピストの中には、さらに至上の成果を追い求める人がいます。国家試験の有資格者ではないことへの焦りや危機感がそうさせるのか、あるいは実力の世界で生きて行くための目的や手段がそう思い抱かせるのかは分かりません。

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至上の成果とは「身体の悪い所が治った」というものです。しかしそこまで必要とは思いません。マッサージ師はもちろん、本職の医師ですら治療はそれほど簡単な領域ではないからです。しかし「治し系」に魅力を感じ、本格整体やカイロプラクティックに足を踏み入れるセラピストも少なくないようです。

マッサージを治癒行為すなわち治療として捉えると、もみほぐしは非治癒行為に区分できます。もみほぐしにも治癒的な効果はある程度みられますが、あくまでもリラクゼーションであり、医療行為ではありません。

取り払われる垣根

国家資格は良くも悪くも法律によって守られ、法律によって規制されます。リラクゼーションが興隆を迎える中、あん摩マッサージ指圧師、鍼灸師、柔道整復師、理学療法士などの有資格者にも従来にはない動きがみられます。

たとえば柔道整復師が自身の資格も活かせて法律で定められた症状への保険適用もできる接骨院や整骨院ではなく、あえて民間の整体院を開業するケースです。平成2年に約2万2千人であった就業柔道整復師数は平成28年には3倍以上の約6万8千人に増えています。遵法規制によらず、自由に営業できる魅力の方が大きいからでしょう。

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同様のケースは他の医療類似行為の資格者にも見られます。鍼灸師は平成2年の約12万人から、28年の約23万人へと約2倍に増加し、鍼灸院数は同期間で約3倍に増えています。リラクゼーションに携わる鍼灸師が増えている一因です。やはり会員数が同期間で約10倍に増えた理学療法士の中には、従来の医療機関勤務ではなく、スポーツマッサージなどの分野で個人サロンを営むケースが出てきています。

同業者が増えることによって遵法の恩恵が得られないことに加え、根本を左右するものは最終的には個人の要素であることから資格に縛られない動きが出ていると考えられます。平成に行われた様々な規制緩和によって、あらゆる垣根が取り払われつつあると考えるべきでしょう。

もみほぐしとマッサージの違い

もみほぐしとマッサージは同じものです。あえて違いを上げるなら、非治癒と治癒という観点があるのみです。それはあくまでも法律上の観点です。マッサージ師がリラクゼーションサロンで顧客を相手に行う施術は何でしょうか。もみほぐしです。マッサージであるためには、治癒を目的とした治療院をあん摩マッサージ指圧師として開業するか、医療機関に勤務しなくてはなりません。法律上の観点とは、つまりはそういうことなのです。

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本格整体やカイロプラクティックはもみほぐしではないのでしょうか。それもマッサージと呼べない以上、もみほぐしに含まれると著者は結論づけています。広義のもみほぐしは「リラクゼーション」とほぼ同義語と考えてよいでしょう。

リラクゼーションはそもそも「癒し系」を本分とするカテゴリです。より高い施術効果を求めて「治し系」を志す意思は法には触れませんが、行き過ぎた治療広告は法に触れる可能性があるので注意が必要です。

もみほぐしセラピストは胸をはって堂々と自分の仕事を押し進めるべきです。その理由や様々な根拠を述べてきました。いよいよ令和の時代を迎えます。マッサージとの構図やその違いを論じることすら、今後は大した意味を持たないかも知れません。