肘へ観念
揉みほぐしで「肘の使用」には様々な観念が存在します。
「肘は指よりも強い圧を入れることができるので、強揉みに適している」。肘の強圧観念です。硬くて大柄な体形の顧客が対象にされます。
「肘は強くて硬いことから安易に用いてはならず、相手の身体にケガをさせる危険が高い」。肘の危険観念です。揉みほぐしサロンによっては肘使用を全面禁止にしているところもあるようです。顧客志向に過ぎ、自店のセラピストを信頼できないのは悲しいことかも知れません。
「まず指を使うことに十分慣れ、肘はしかるべき経験を積んだのち初めて使用を許すべきである」。肘の上級観念です。経験は短くても1年、通常で2~3年程度と目されます。
肘のスペシャリスト
肘への観念は全て、あながち間違っているとはいえません。しかしデリムにおける肘の捉え方や使い方はまったく異なります。
「肘は身体への接触面が広く丸みがあり、その感触を活かしてクライアントをいやすための部位」に過ぎません。そして「セラピストの揉みを助け、疲れを減らし、強くて硬いことから故障の危険が少ない」のもまた肘なのです。
デリムでは肘を寝かして柔らかく使います。強く揉む目的ではないので立てません。肘には、指にはないDプレスの気持ちよさがあります。重心をかけやすいというメリットもあります。
どこでもだれでも揉めるので、全身のあらゆるところで肘を使うことができ、硬い人はもちろん90歳のご老人にも同じ様に使えます。デリムを通じて、リラクゼーショナルな肘のスペシャリストを目指せます。
神秘のベール
クライアントに有効で、セラピストにも有益な「肘」があまり脚光をあびないのはなぜでしょうか?。うがった見方をすれば、肘使用に神秘のベールがかかっているといえます。
サロンの多くでは、揉みほぐしトレーナー自身も職業セラピストとしての店内で施術を行うのが普通です。やすやすと技術を教え、万一新人が自分を超えるとメシの食い上げです。それで指名をガンガン取るようになると、自分で自分の首を絞めてしまうことにもなりかねません。
指導報酬が仮にもらえるにせよ「時間と代価をかけて苦労して身に付けた技術を軽々しく他人に教えられようか」という心境も働くでしょう。ごく初歩的な技術までは教えるが「後は自分で会得しなさい、皆そうしているのだから」といった放任主義も生まれます。
デリムはベールをかけません。先入観は何もなく、肘を特別なものとは捉えません。
横揉み
肘と並んでデリムのツイン志向を果たす技術は「横揉み」です。クライアントは側臥位(横向き)でくの字に寝ることになり、背臥位(うつ伏せ)よりも呼吸や姿勢が楽でリラックスできます。
デリムの横揉みは首スジや肩、背中(肩甲骨周り)、腰周りは特にほぐしやすく、体幹全体に効かせることができます。セラピストの負担も少なく、クライアントと同じくリラックスした状態で行えます。
横揉みは安定期に入った妊婦や腰の曲がったご老人、肥満でうつ伏せが苦手な相手ばかりではなく、実は誰にでも適したスタイルです。
肘と同様に「横揉みは危険で誰でもできるものではない」というベールがかけられることがあります。腹腔が無防備になるのは確かですが、どのような体位であれ、セラピストが誤った手技を施せば全てが危険だといえます。
デリムにおいて横揉みは何ら特別なものではありません。
優れた汎用性
身体のコリを様々にほぐすため、部位に合ったテクニックを個別に覚えて使うほぐし揉みに比べて、デリムの手技はとてもシンプルでスタンダードです。それゆえ優れた汎用性があります。
一つの揉みを覚えれば、他の身体のどこかで同じ揉み方が使えます。部位があってそれに適した揉みが続くのではなく、揉みがあってそれを活かせる部位が後に続くという考え方です。肘による揉みや横揉みを比較的簡単にこなすのもそれが理由です。
シンプルでスタンダードな揉み方には癖がありません。様々なタイプのクライアントに受け入れられやすい傾向があります。
「ほぐし」よりは「いやし」を重視することから、デリムでは圧の抜き入れを優先し、細かいほぐし技にあまりこだわりません。初めて揉みほぐしマッサージを覚える人に最適です。簡単で分かりやすく、しかも高い応用が利くメソッドです。